山仕事」カテゴリーアーカイブ

山仕事備忘録〜小道に覆い被さっていた偏重木〜

これほど傾いた木を起こすのは初めてのこと。竹藪から顔を出す格好でした。斜面直下はコンクリートそして柚子ばたけ。

「落葉樹は針葉樹のようにはいかない」とはよく聞きますが、こういったケースはまさにその意味するところを理解しているかが成否の分かれ目となりそうです。牽引によって捻れることを充分に想定しなければなりません。

前段階として、できるだけ枝を落とします。偏重を少しでも軽減するためです。上方に取り付けた滑車を介し牽引具で少しずつ地上に降ろすようにします。 セッティングの手順に課題が残る。

 枝を降ろして片付けて、また登ってを繰り返す。そのまま降ろすと直下の木々に絡まってしまうので、部分的に枝を落としてバランスを変えたり引き上げ直したり。何事も一筋縄ではいかない。

 二日目。谷側へ張り出した枝を全て片付けたらセットを外し(滑車を取り付けていたスリングは枝の股に噛み込んで取れなかったのでそのまま)、木を起こすためのセッティングに替える。

ワイヤーロープと牽引具の付属ワイヤーをクリップで繋ぎ、予め滑車に通してから登ったのですが、後から考えれば、そもそもクリップはアンカーポイントで使うべきでした。そこに気付いていれば、ロープ類はいずれもフリーの状態で登ことができましたし、樹上でのセッティングはより安全に済んだでしょう。今回はそれで上手くいきましたが、取り付けるにもテンションが掛かって重く、ワイヤー類の取り回しにも余計な注意が必要でした。つまり、明確になったのは「牽引具やアンカーポイントのセットは樹上セッティングが終わってから」です。

 受け口は水平に深く角度を広く取る。向きを前方からも確認し、今一度、牽引具のテンションを強める。

重心は圧倒的に後方にあるので、十分にテンションをかけていないと、追い口を入れる途中で刃を噛み込み、いきなり倒れるかもしれません。もちろん、そんなことにならないよう不用意に切り込むことはしませんし、可能性を一つでもなくすため、木の股に滑車を取り付けて作用点がずれないようにはしてあります。とはいえ、幹には虫食いや腐れが入っており、その範囲によっては思いがけないことが起こるかもしれず、支点であるツルが機能しなかった場合、いくら引っ張っていても横方向に倒れてしまうことを防ぐことはできません。つまり、ツルを正確に作れるかどうかにかかっているということです。

以前読んだ本の中に「追い口を幹に対して直角に入れる」という記述があって、それが基本原則なのかどういうことなのかわからず気になっていたのですが、今回こそ、それが適用される場面だと思いました。今回は傾き曲がった木を牽引して起こします。ツルに加わる捻れの方向。受け口側を前方、追い口側を後方とすると、前方斜め下へ潰れる側と後方斜め上へ引きちぎられる側を想定すると、ツルに低い方と高い方ができるその追い口の入れ方はとても理にかなっています。終盤、元口が後方に滑り落ちないよう、特に引きちぎられる側には十分なつっかえが必要です。(ツルの高さはつっかえの深さとなる)

さて、追い口の入れ方は定まりました。いよいよ伐り始めます。次は必要十分なその幅を見極めること。浅いと裂け上がってしまうので、まず下に裂けるかどうかです。その前に、牽引力が効いているかの確認。切り口がちゃんと開き始めているか目視では分かりにくいので、楔を打ってみます。牽引を少し強めると浮きました。ならばということで、自分が想定している幅まで追い口を少しずつ入れていきます。パンと木が弾ける音がしました。下に裂けたのでもう十分であるということです。更に牽引を強めていきます。少しずつ起き上がってきました。葉も揺れています。

 木の反応を確かめながらなお慎重に進める。

前方斜め下に潰れる側

後方斜め上に引きちぎられる側

だいぶん起きてきました。牽引具にかかる力が徐々に軽くなってきます。気は抜けませんが、いよいよ大詰めです。起き上がった後はそのまま引っ張る方向に倒れるのではなく、傾きと樹幹の曲がりに従って、若干回転しながら道に沿って倒れるというイメージ。

このタイミングで後方にずれ落ちてしまわないように。

無事、思ったところに寝てくれました。この木が片付いたのは大きいです。いずれはと思い立ってから4、5年経ちました。歩くのに心地よい小道にしていきたいものです。

山仕事備忘録〜東の藪小道下〜

猛暑が続きます。以前は麦わら帽に濡らしタオルで炎天下も仕事をしていましたが、最早とてもではありません。熱は身体に蓄積されるのか、頑張るとかえって弱くなるようです。作物にとっても限界はあり、今後、病虫害が増えることはあっても減ることはないのだろうと思います。生育に必要な日照量を確保しつつ如何にして木陰を作り気温上昇を抑えるか。また、土砂災害が各地で起こっているのを見ると周りの放棄林に不安が募ります。これまで山仕事は主に冬だけでしたが、それでは間に合わないように思うので暇を見つけては手入れを続けています。

自分が管理すべき山には未だ一度も手を付けられていないところがあり、ある程度伐り倒して日常的な手入れをするための下地作りを少なくともここ数年で終えたいと考えています。日々の手入れができて初めて現状が見えてくるので、全くの手付かずが最も怖いのです。農園としては何より畑仕事を優先したいのですが、立地的な制約はあり、また、年齢的にいよいよこうしたハードな仕事を先延ばしにはできないという危機感もあり、急務だと考えています。

 この春片づけたところ。竹は小切らずそのままを積み上げた方が嵩張らず安定する。こういう仕事は一人でごとごとやる方が、大変ではあるけれど安全。自分が還暦を迎える頃にはこれら積み上げたものが片付き、必要な分だけを伐り出して暮らしていけることが理想。腰と相談しながらなので少しずつ時間がかかります。

次はこの一帯。 ここも今年中に手をつける予定。下を整えて枝打ちから。

 (7月7日)我が家の川涼みは7月中下旬まで。

山仕事備忘録〜道上の大径木その2〜

樹上作業をするきっかけとなった道上の二本もようやく片付きました。枝を打ったり、今までだと届かなかった高所にロープをかけたり、 山仕事に幅ができました。

玉切りして割って、斜面上の平たい所に放り上げて。ロープで確保しつつ一日で一本を片付けます。キツイので二年に分けました。4シーズンかかったこの道上一帯がこれでひと段落。かつては得られなかったこの陽当たり。清々しい達成感。

同じ中山間地でも、植林や藪に囲まれることなく農地が広がるところもあると思いますが、これから描けるプライベートな空間を思うと、ここが良かったのです。

一輪車を乗り付けることができないので、家まで抱えての搬出。できる限り乾いて軽くしてからごとごと運びます。

山仕事備忘録〜東の藪〜直径80センチの大径木の後始末〜

燃料を自給できることの有り難さをしみじみ感じるこの頃。寒い夜も雨の日も不安なく過ごせます。裏山がある程度片付いたので、次は一昨年伐った大径木に取り掛かります。急斜面に水平な足場を作り、道具を新たに揃え、挙動を予想してそこに寝かせる。自分なりに段取ったわけですが、結果は奇跡的だったと思います。自画自賛などありえません。安堵と感謝、そして自己の確認です。

玉切りして割ってから搬出。直径80センチを越える株元は、両側から刃を入れても届かないため、矢で割ってバラしながら切り進めます。中腰で横方向に槌を振るこれがかなりきつい。日々のストレッチとトレーニングを続けて身体を強く保つことはもはや必須です。とにかく重量物は若いうちに片付けて、良質な薪のとれる山にしていきます。

刃が届くところまで来ればだいぶん楽に。谷側に寝かせたもう一本のおかげで転げ落ちる心配はありません。

週末はもっぱら山仕事です。視界が開け本当に居心地良くなってきました。これを片付けたらようやく次が伐れます。一箇所を一度に伐り剥ぐのではなく、裏山や畑の東や西など何年もかけて満遍なく手入れすることで、次なる木を育てながら進めます。

高村光太郎の詩『道程』の一節、

「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」

二十数年前に北海道の恩師から頂いた言葉ですが、積み重ねてきたことの成果を今こうして眼前に見渡せた時、自らを勇気づけ奮い立たせてくれるようで、なんとも有難い心持ちになりました。自信はその都度塗り重ねなければ脆く見失うほどに儚い。現場に立ち続け、此処ぞで踏ん張れる自分であるかどうか。これからも事故なく山の暮らしを続けていけたらと思います。

「お山の宿みちつじ」のプリン。きめが細かく滑らかで本当に美味しかったです。カラメルも美味しかったー!

山仕事がはじまりました

秋も深まり、ストーブに火を入れると薪の消費が加速します。

我が家では風呂を薪で沸かすので年中薪暮らし。外出していて帰りが遅くなった日など、シャワーで済ますこともありますが、あまりサボっていると、虫が増えたり家が湿気ってカビが生えたり、冬は寒すぎてシャワーを浴びるにも気合がいるという切実さもあって、多分350日は焚いてます。なので、山仕事は欠かせません。

腰の具合は信じられないほど良くなりました。臀部のひきつりもほとんど無くなり、もはや腰痛持ちであることを忘れるくらいです。かつてに比べれば疲れやすくなりましたが、それについては、身体の感度が良くなったと前向きに捉えていいそうで、思い返せば、自分で言うのもなんですが、ねじ伏せるが如く酷使してきたと思います。今では毎日入念にストレッチをすることで下手な力みも取れて呼吸がしやすくなり、かえって調子が上がってきたくらい。

枝を払って片付けるのも、玉切りした丸太を運び出すのも、久しぶりにやればハードな仕事ですが、この暮らしが自分達の軸なので、心身が充足します。

 

山仕事備忘録〜東の藪その5〜受け口の再調整〜

数日雨が続きました。いよいよ4月が近づいているので、暫時もう一方を伐ります。手前二つの切り株の間を狙いますが、ライン上に前回伐った株が大きくかぶっていたため、3分の1ほど、地際まで切り欠いておきました。

 受け口を入れ追い口を入れ始める。

いつも通り、打ち込む重さを確かめつつ追い口を切り進めてゆきます。谷側正面に立ったとき目線より高く設定してしまったのが、仕事を難しくしました。ライン前方が若干突き出ているため、また、道上の桑の木を伐ったあとはこの株元へ寄せて安定させたいのもあって、ある程度高く残す必要はありました。とはいえ、何を優先させるか考えが定まっていない。たとえ、元口が跳ね上がっても、前回のように山側へ大きく振れることはないし、株元から千切れ落ちても問題はない。それよりも、木が山側に反っているため、谷側のつるを切りすぎないよう、気をつけなければならない。その大事な作業がやりにくい。チェーンソーの調子も思わしくありません。妙に歯が滑る感じがします。去年チェーンが破断してしまった時の感覚に近いように思います。やはり刃当たりの調整不足だったのでしょう。

シビアな木を伐る場合は特に気力体力ともに万全な状態で臨みたいのですけど、立て続けとなればそうも言ってられません。そもそも今シーズン、カーブミラー脇の一本とこの一本を伐るつもりはありませんでした。難しい木を伐るためには、事前にある程度難しい木を伐って、感覚なり、手順なり、抑えるべきポイントを思い出す必要があります。身体のコンディションや時期を考えれば前回で終わりにしたいところでしたが、いろいろと事情があり、また、来シーズンはじめに伐るべき一本が容易ならざるそれという間抜けな状況を作りたくはないということもあり、多少の無理をしてでも片を付ける必要がありました。とにかく、調子が出ない時でも如何に失敗しないかです。最も避けるべきは山側へ逸れないこと。前方の切り株に激突させないこと。

弱気な分、ツルを厚く残そうとするので、楔がなかなか入っていかない。楔の尺をほとんど使い切ったところでようやく角度が付いてきた。思っていた以上に難儀し、集中が切れそうになる。呼吸を整え、後ろ正面に立って幹の曲がりと手前山側の切り株との位置関係を確認する。初めに設定した受け口の角度で問題なかったはずが、思っていた以上に反っていたようで、まともに当たりそうです。受け口を谷側へ再調整する。当初の目標を変えることになりますが、たとえ逸れても谷側ならば今回は問題ありません。安定するよう、他にも株は残してあります。

前方で道を止めてもらっている嫁にそろそろであることを伝えます。4つ目の楔を入れ、一つを浮かして手製の太い楔に替えます。とにかく山側へ逸らさないことが大事。さらに楔を追加。山側のつるが裂け始める。しかしまだまだ楔が重い。厚く残していた谷側のつるを切り込む。弾けるように裂ける音が鳴った。一瞬、冷や汗が出る。山側へ逸らさないためには谷側のツルを最後まで効かせ、山側への一手によって倒さなければならない。今一度、深呼吸。満遍なく楔を打ち込む。少しずつ入りやすくなってゆく。いよいよです。

後ろ正面に立って方向に問題がないことを確認する。目標とする株と株の間に収まるはず。最後に楔を打つ。ゆっくりではあるが、とてつもない量感で、軋み裂け、ちぎれ抜ける音と共に動きはじめた。じっくり挙動を確かめようとするものの、怖さが先立ってできない。より斜め下方への伐倒ということもあり、着地の衝撃凄まじく、空気が揺れた。

緊張冷めやらぬ中、とにかく無事に済んだことを確かめます。狙ったラインより谷側へ逸れましたが問題はないようです。全て現場に収まっているし、不意に動く要素は見当たらない。しっかり安定しています。(現場は道と他人の土地に囲まれた三角州のような狭地なので、勢い余って滑落すればはみ出す恐れもあった)

渾身の力で何度も何度も楔を打ち込みました。よく身体が持ち堪えてくれたものです。虚脱感の中、いよいよ自分の年齢に不安を覚えます。

直径は65センチ強、山側のつる幅10センチ、谷側のつる幅10センチ強。厚く残した谷側はより裂け上がっており、残し過ぎたことを意味している。(とはいえ、材として伐るわけではないので、これでいいと思います)楔を打ち込む余地が十分過ぎるほど残っている点を見ても、受け口を必要以上に浅く設定していたことがわかります。その分、楔の効きは甘くなる(打ち込む割に起きない)し、打ち込むのも大変になります。改めて受け口の深さを測ってみれば10センチ。浅すぎでした。基本は大径木ならば抜根直径の3分の1、つまり今回の場合は20センチ前後。)牽引できない状況のため、楔だけで倒さなければならないからと、できるだけ受け口を浅くしたわけですけど、そのことがツルを弱くするだけでなく、楔の効きを悪くし、今回明確になったように、打ち込むのが余計に大変になるということがわかりました。

結果的にはベストなところへ落ち着いたようです。とはいえ、狙った通りではありませんでした。何故そうなったのか。しかし、倒れたのは最終的に設定した受け口正面でした。

数日を経て、ひとまず出した答えは、木の真下からよりも俯瞰できる前方正面からの目測を信じるべきであるということ。前回も、カーブミラーの柱に当たるかどうかという判断において、遠く前方から見ている嫁の方が、調整の早い段階で当たらないと見えていました。つまり、嫁がもう大丈夫と見た時点で私はまだ当たるように見えており、さらに谷側へ受け口を調整したのです。結果、谷側へ逸れてしまいました。とにかく、厳密な精度を求められる場合は、充分離れた前方から再度確認するべきなのでしょう。

実際の軌道をイメージしてみる。例えば、半球の空を描く月の軌道。全く反りのない真っ直ぐな木の描く軌道が真上を通る季節のそれであるなら、反った木は冬に向かって角度がついた月の軌道を描くのではないか。三角定規を使ってみるとどうでしょう。短辺を受け口、斜辺を木の反りとして、パタンと倒してみる。そうすると、先に述べた月の軌道のようにはいかないようです。角度のついた月の軌道。それをもたらすのは受け口が水平ではない場合、例えば、斜めに立つ幹に対して直角に受け口を設定した場合は容易に想像できます。模型で実験できればはっきりするのですが、、、頭の中だけでは限界があります。

ただ、見え方について言及すれば、近くの対象が遠ざかるにつれて視角は浅くなってゆくわけで、錯覚してしまう可能性は考えられます。自分の腕と指を使って実験してみる。前腕を木に見立て、人差し指で幹の反りを表現する。肘を支点として倒れる動きを再現し、前方の柱か畳の縁か、適当なラインに向かって倒していった時、見え方において、指先とそのラインとの間は一定ではなく、手前から遠ざかるに連れて狭まってゆく。つまり今回に照らし合わせれば、反った幹が山側にある対象物に当たりそうだと、近くからは余計に見えるということでしょうか。恐怖心がさらにそうさせるのかもしれないけど。

見え方と実際の軌道とその誤差。今シーズンの2本に共通するのは、前方正面からの目測によって予め定めた目標よりも後方直下からの見え方を優先させて受け口の向きを途中で変えた結果、それに応じて逸れたということです。

一日休息を取り、次なる桑の木に向かいます。連日の負荷が蓄積され、指が一本腫れ上がってしまいましたが、何とかやれそうです。今回は道に倒すことになるので、地域の方にも手伝ってもらいました。軽トラも使って三方の道を止めます。

初めて追いづる切りを使います。斜め下方へ強く重心が寄っているので通常の追い口の入れ方では、途中、幹が捩れて刃を噛み込むかもしれません。それは去年の台風の後始末でも経験済みです。直径は40センチ前後。下には避けたい岩と小さな欅があります。受け口を水平に作るのではなく、傾いた幹に対して直角に、倒れる際、素直にお辞儀をすれば、それらを避けることができます。軌道をここで再検証します。

受け口を作ったら、刃を幹に突っ込んで貫通させる。つるを作り、そこから反対へ切り進み、端を残す。最後はそのストッパーである端を切り離して倒す。上手くお辞儀してくれました。

枝を落とし、2メートルほどに玉切りして元側の太いものは軽トラで牽引。梃子を使って転がし道脇に据える。先輩の知恵に触れられる貴重な機会。もう一方も同様に。

これで今シーズンの伐採作業は終わりです。また一段と明るくなったし、また一つ不安を解消でました。次はこれまでに倒したものを片付けてから。この現場については出来るだけ早く、50歳までには終わらせたい。そして、木漏れ日の美しい小道になるよう、次なる植生を豊かにしたい。既に、そこ此処に紅葉や欅が顔を出している。山の手入れは自分にとって将来を楽しみにするための大事な仕事なのです。

山仕事備忘録〜東の藪その4〜カーブミラー脇の大径木〜

この2年続けて道上の手入れをしてきた春の道作り。今年は依頼を受けて、空き家に付随する支障木を伐ることになりました。すでに石垣は崩れ始めており、隣接する家の人たちは台風のたびに怖い思いをしてきたそうです。大径木というほどではありませんが直径40センチ以上はあって、太い枝が乱れ途中から二股に分かれています。そして、重心が寄った谷側に足場はありません。樹高20メートルはないにしても、間違えば電線を巻き込んで家に激突させてしまうことになります。予感はしていたものの、当日、俄かに決まったので、どう倒すか、段取りも何も勝手がちがいます。

こういう時こそ事故を起こしてしまうのではないか。不安を覚えましたが、自分が進めている山仕事を今後も地域に納得してもらい、時に協力をお願いするには、ここは受けるしかないと腹を括りました。それに、人の役に立てるのは素直に嬉しい。

時間はかかっても、枝を打って樹形をはっきりさせる。ロープに至るまで自前の道具に改め、チルホールで牽引する。受け口側に立って追い口を入れるのは難しいけれど、これまでの経験が役にたちました。楔を打ちこんでは引っ張るを繰り返し、反応を確かめつつ確実に傾けてゆきます。つるの残し具合を心配する声が上がる。段階を踏む作業を手間取っていると勘違いする人もいる。やりづらいものですが、こういう時こそマイペースな性格が味方をしてくれます。集中を切らさず終えることができました。

さて、ここ数年伐り進めてきた暗くカーブする丁字路周辺の手入れもいよいよ大詰め。カーブミラー脇とその奥に大径木が二本、そして道上から被さる桑の木が二本残っています。

カーブミラー脇の一本は、この藪の手入れをしなければと思ったきっかけの木でもあります。樹皮が黒ずみ樹脂が滲み出ていることから傷んでいるのは明らかで、中が腐っているとなればできるだけ早く片付けなければならない。当時は竹が浸食した藪だったわけで、この木さえ倒せばいいものではなかったし、実際に倒す余地もないほど乱れていました。

腐れがどういう具合に入っているかによりますが、ツルの強度、楔の効きに問題が生じるかもしれず、牽引できるよう、アンカーにする株を残しておかなかったのは反省すべきところです。が、ここへ至るまで念頭にあった伐倒ラインは、手前へ道に沿わせるのではなく奥に向けてました。その読みもまだまだ甘かったということですが、ラインというのはそれまでに積み上げたそこ此処のラインや搬出の段取りとの兼ね合いもあって最後まで決まるものではないとも言えます。

昨シーズン、畑仕事をしていて視線を移した時、たまたま、手前へ向けて倒すライン正面から枝ぶりや幹の曲がり、そしてカーブミラーとガードレールの位置関係が俯瞰して見えました。倒した際、梢がどこまで達するか、おおよそを測れば、残したい楓にギリギリ触れるかどうかということもわかりました。そうしてラインが決まり、ガードレールに当たりそうな枝を落としておきました。その夏は台風が激しく、手前の徒長木も大きく揺れました。後日見ると更に至るところから樹液を垂らしています。出来るだけ早く伐らなければ。

(2022,3)

そして、今シーズン。具体的にどう寝かせるか。伐倒ラインそのままに落ち着くよう手前の株を高めに残することが肝となりそうです。困ったことに、その株が若干ラインにかぶっています。なので、倒す際は伐り株の肩に樹幹を当てて斜面上側へ転かす形になるでしょう。誤って下へ転かしてしまうと不安定になり新たな危険を生みます。残す高さが難しい。高過ぎると激突させて元が跳ね上がることになるし、低過ぎると杭にならず下へ転けてしまうかもしれません。

 手前を伐り、受け口を作る。牽引できないので、いかに楔を効かせ、いかにツルを最後まで効かせられるか、より精度が求められる仕事になる。

手持ちのチェーンソーは刃渡り40センチしかないので谷側まで届きません。手鋸と斧で最終調整します。芯切りを始めると、10センチも切り込まないうち腐れに行き当たり刃が一気に奥の方へ抜けました。予想はしていたものの冷や汗が出る。気休めかもしれないけれど、手鋸でその程度を探る。幸いなことに、山側と谷側のつるは通常芯切りする程度に残っているようです。問題は追い口。

谷側は残しておいた竹の伐り株に乗って作業します。材として伐るわけではないので、根張りや腐れによる不確定要素が増える地際ギリギリよりも作業性と確実性を優先させます。足場の強度を考えれば、来年、再来年と、ぐずぐず先延ばしにはできません。プロは番線と丸太でしっかり足場を組むようですが、素人覚えではかえって危ないでしょう。

追い口を入れ、楔を打ち込んでゆきます。半分以上打ち込んではじめて傾きが出てくる。後ろ正面へ立ち、カーブミラーに当たらないか段階的に何度も確認する。向きが悪いようなら受け口を直す必要があります。そのためにも、追い口を額面通りつる幅が直径の10分の1になるよう、はじめに切ってしまうのではなく再調整できる余裕をとっておき、反応を見ながら詰めていきます。

受け口を若干谷側へ再調整する。それに応じて木の傾く向きが目に見えて変わる。追い口の入れ方と楔を打つ強さを慎重にする。心情としては、つい、山側の楔を強く打って谷側へ避けたいところですが、それが過ぎると下へ転かすことになります。三つの楔を均等に打ち込んでゆく。特に谷側が重い山側が重いということはない。なので、追い口を均等に切り進めていきます。山側と谷側のつるが同じ具合に裂けはじめ、傾きがより強くなってきました。株元から梢まで全容を見て、思う方向に倒れることを確認できるまで、ひとりでに倒れ出さないことが重要です。時間がかかっても手順を踏みます。

ゆっくり動きはじめました。間違いなくカーブミラーを避けることを見届けました。が、着地してから暴れました。

思っていた以上に元口が横方向、山側へ大きく振れてカーブミラーの根元に当たってしまいました。大径木の圧倒的な重量によってパイプは呆気なく折れて倒れてしまいました。

思っていたように切り株の肩に当てて山側へ転けはしたのですが、そのもう一本向こうの切り株が高すぎたのか、やはり受け口の角を欠いておくべきであったか。受け口から着地点までの直線をしっかり見極めておくべきでした。

一体どれほどの出費になるだろう。暗澹たる思いで役場に連絡したところ、ちょうど当該箇所においてガードレールを新設予定でその際にはカーブミラーについても挿げ替えるので町の方でみてくれるとのこと。よかった〜。ありがたい。肩の荷が降りました。であるならば、実はということで、道上面から傾いている桑の木がまさにそのカーブミラーの真上に被さり、どう始末をつけるか、ツリークライミングやリギングの技術を身につけてとなれば何年先になるだろうと考えていたところ、この際ならば、そのまま下へ倒すことができます。工事の前にその仕事を済ましてしまいたい。区長に報告し、小部落に相談し近日中に取り掛かることにしました。

藪の状態が長く続くと考えられないほどの巨木が大きく傾いて生えている。通行人は存外頭上の安全には目を向けないもの。

杉や竹で覆われていたとはいえ、私も人に言われてはじめてこの存在の怖さに気づきました。地域の中からなんとかして欲しいという声が上がったものの、具体的にどうするか、実際に処理するには事前に周りを片付ける必要があり一筋縄ではいきません。私が責任を負うところではなかったのですが、我がことでもあったので地権者に掛け合い主体的に進めてきました。

奥にあるもう一方の桑の木は、昨年の台風で枝が折れて垂れ下がり道を塞ぎました。高枝用の鋸を手を伸ばし片手で動かさなければならない上、捩れる枝が刃を噛み込むのでなかなか切り落とすことができず、一人で処理するのに半日以上かかりました。

改めて今回の木を検証。直径は70センチ前後。受け口を浅めに設定。谷側のつる部分の腐れが広がっていたのがわかります。市販の楔では役不足になることも考えられたため、より太いものを樫で2つ作っておいたのが功を奏しました。

さて、後始末。今後の段取りなどを考えると、その日のうちにある程度まで片付けておかなければなりません。

4メートルほどに切り離した元側も切り株で安定していたましたが、なお、安心できるように処理。チェーンソーで切り込みを入れ、ハンマーと矢で少しずつ割ります。大変ですが、これならば途中誤って転げ落とす心配はありません。

割ったものが思いのほか軽く乾いていました。春になった今時期なのにあまり水を吸い上げていないようです。いよいよ枯れる手前であったのでしょうか。腐れはやはり株元から上にかけて収束しています。受け口と追い口を高めに設定して正解でした。

キノコの駒打ちをしました

地域の方から立派なクヌギと榎の原木をいただきました。現場で枝を落とし、玉切りして運び出すのもまた一仕事ですが、お声をかけて頂けるのはやはりありがたいです。椎茸、ヒラタケ、ナメコを400駒ずつ打ち、裏山へ一本一本抱えて運び上げます。身体と相談しながらなので4日かかりました。若い頃の無茶が年々響いてきますね。まだ、伐採現場の片付けが残っています。

10年前にどんぐりを植えて芽の出た我が家のクヌギ。ほだ木にするにはまだまだ年月がかかりそうです。それに、育っているのはたったの5本。できるだけ早く辺りを伐ってまた植えるところを広げないと何にもならないのですけど、伐れば薪にして片付けて、一つ一つ手作業なので時間がかかります。

山仕事は力技で一気にやろうとするとそれだけリスクも高くなります。鬱蒼とした植林を伐り開き、欅、椎、樫、椿、柊、楓、楠など、次なる雑木が芽を出し、ある程度育ったところで選定、間引きをして新たな森のイメージが見えてきたら、次また伐り進めるの繰り返し。伐り開けば伐り開いた分、森として落ち着くまで草刈り仕事は増えていきます。

山仕事備忘録〜西の藪の後始末その2〜

年が明けてから寒さ厳しく、雪が積もって身動きのとれない日が続きました。作物の成長も休眠を迎えますが、小さくて収穫に至らなかった年内どりのキャベツがありがたいことに少しずつでも太ってくれたので、まずご要望あった分のHotdog stuff を仕込みました。

春となれば、いよいよ新しいシーズンに向けて準備を始めないと。草刈り運搬の大半が残っていますが、薪作り、山の手入れも冬の大事な仕事です。そして竹藪の片づけ。昨年は応急処置をした程度なのでまだまだです。孟宗竹のかなり厚い藪だったわけで、直径20センチ前後がゴロゴロ。

灰にしてしまうのは勿体無いので土づくりに使うことにしました。時短のために普通なら運搬車やチッパーを使うところ、手間ひまはかかっても持ち合わせの道具、チェーンソーで玉切りしてナタで割り、コンテナで抱えて運び出します。畑の脇に積み直し、更に熟成。あと何年かかるかわかりませんが、とてもいい土になると思います。

(伐って6年目にもなれば株が根本から抜けるように)

山仕事備忘録〜西の藪の後始末〜

寒く乾燥した季節も終わり、風が温み、雨が降っています。

この冬は町内でも火事が多発しました。あまりに乾燥していると、草刈り機やチェーンソーの歯が石か何かに当たって出た火花でも起こるらしく、重機にハンマーナイフモアをつけて刈っていた現場の火事はそれだったようです。力技な分、余計に気づかないのでしょう。野焼きによるのものは相変わらず毎年のように起こります。聞くところによると、同じ人が起こしているようです。消防団に入っている知人が呆れていました。

あれから、火事には敏感になりました。日暮れ間近、積んでおいた竹を短く切っていると火花が見えてひやっとする。煙は出ていないか、一度帰ってからジョロ片手に再度確認に行きました。

5年以上前に伐って積み上げておいた竹と杉の丸太が崩れ落ちていく夢を見ました。雨に濡れ、いよいよ朽ちゆく様がありありと見えたのです。まさかとは思うけれど、急斜面なので転げ落ちて事故を起こすかもしれない。谷を一直線に降ってゆくコールゲートは鬼門です。

矢も盾もたまらず、辺りが白み始めると現場に行きました。流石に夢に見たほど切迫した状態ではないようにも見えるけれど、支えにしていた切り株も頼りなく傾き、もはや予断は許されない。そう思うべきでしょう。春になれば嵐も来る、虫も出てきていろんな事が一気に動き出す。

種を蒔かねばならないのに、いろんな片付けに追われます。先の先のためにあれもこれもがあります。春は忙しい。

殆どを一株そのままの長さで3メートルほどの高さまで積んでおいたもの。手に追えなくなる前になんとかしなければ。

(2017年3月 伐った当初の様子)

白ネギの仕込みもしなければならないが、今日も午後から雨の予報。杉の丸太に取り掛かることにした。

上に積んだ竹を避けていくと丸太が顕になってくる。自分で伐った後だからできる作業。人のやった後なら、何がどうなっているかわからないので頼まれてもやりたくない作業です。できる限り玉切りして搬出した後、ロープで確保しておきました。ようやく安心して寝られます。