家のこと〜その3〜

倒壊の恐れがでているわが家は、土台が折れそうにたわんで敷居が沈み、ガラス戸が倒れてきそうになったり、ひとりでに軋む音がかなり頻繁に聞こえてきたり、いよいよ安心して暮らせる状態ではなくなってきました。この梅雨と夏を越せるのか。当面、取り壊して建て直すことが無理とわかった以上、部分的にでも手を入れて暮らすしかないので、兎にも角にも大工さんにお願いすることにしました。

話は前後しますが、貸主と新たに結び直す契約について、3月末に司法書士事務所から案が届いたのですが、気になる箇所が幾つかあり、以前法務局でお世話になった弁護士に相談に行きました。そうしたところ、こちらが思っていた以上に、効力の限られた気休め程度のものだということがわかりました。

貸主が当該物件の登記名義人ではないとはどういうことか。本件の場合はつまり等しく権利を持った家主が三人いて、そのうちの一人としか私たちは契約できていなかったということです。暮らして5年ほど経った頃にその事実を聞かされてはいましたが、では、どうすればいのか。今年3月の話し合いにおいては、貸主が依頼した司法書士から、他の権利者から発生する問題については貸主においてすべて解決すること、その責任を契約書に明記するという案が出され、それでこちらも安心したのです。しかし、法律について明るいはずの司法書士のこの案は、実のところ何の意味もないことだったのです。解決できなかった場合どうなるのか、否応なく出て行かなければならないという事態にはならないのか。私たちの暮らしは保証されるのか。弁護士によれば、

法的にその条文はほとんど意味をなさず、他の権利者に対して効力を持たないことに変わりはないということでした。

残る家主の二人もまた賃貸人として署名された契約書でなければ、その他の内容を如何に詰めても意味がないということ。後日、貸主に改めてそのことについてお願いするも、「それはわかっているけれど出来ない」と言われてしまい、唖然とするしかなく、そもそも確約するつもりのない貸主の便宜的な形だけの契約だったということになってしまい、、、。貸主にしてみれば法的に問われない責任を負う理由はないということはわかります。とはいえ、いずれにせよ、道義的責任や信頼関係云々の話ではなかった、、、。いや、それは違うのかもしれません。人から借りた家と土地で一生暮らしたいということそのものが、こちら都合の安易な望みだったのかもしれず、売ることはできないと言われた時点で諦めるべきだったのかもしれない、、、。

ただ、こちらも50年という契約期間が結ばれたからこそ、10年という歳月、人生の中で限りある30代の体力の全てを注ぎ、放棄された家と土地をここまでにしてきました。そうでなければ今頃、家は既に倒壊し、裏山も農地もどうなっていたか、足を踏み入れる事すら困難な取り返しのつかない状況になっていたはずなのです。しかし、それを相手に問うことはできません。そうではなく、只々、こちらとしては、もはやその歳月を取り戻すことはできず、別天地を求めるとなれば今の状態に積み直すだけも何歳になってしまうのか。そのことを相手に理解してもらうしかない。

お互い様であることを前提に感情的にならず話し合いを続けていくこと。少しでも意味のある契約にするには、まだまだ時間がかかりそうです。

柱の根元も土台も、そのほとんどが朽ち、開ければあけるほど事の深刻さがわかってきました。思っていた以上にシロアリが進行し、9年前は芯が残っていると判断された土台がすでに材としての強度を失っていました。柱の上部まで進み梁に達しそうなものもありました。本当に今のタイミングを逃していれば手遅れになっていたかもしれません。つまり、取り壊すしかないという状況からぎりぎりの処で脱したのです。

 

 

当初の話では、囲炉裏があった6畳間の土台と柱の根元を挿げ替えて床を板に張り替える予定でしたが、玄関の4畳間も総入れ替えする大掛かりなものとなりました。今後、できるだけ早く足下の全てを入れ替える必要がありそうです。五右衛門風呂と土間の水回りの工事も必要です。

工事は重要となる二つの柱のうちの一つから。言われて初めて気付く事ばかりですが、この家は大きく南につんのめるように傾いた上に北西が深く沈んでいます。ジャッキアップしてその傾きを少しでも補正しつつ高さを決めていくのですが、多方向に歪み、捻れ、倒れようとしている物を押し戻すことに限界がある事は想像に難くありません。とてつもない重量を感じます。

囲炉裏をどうするか。吹き抜けの天井に薪火の暮らしでなければ、かえって虫の温床になっているようだったので、思い切って撤去することにしました。石が積まれ灰混じりの土と接していた土台はやはりボソボソに。床下の風通しも悪く、湿気を呼ぶ格好となっていました。

もう一方の柱は偏りすぎた荷重によって潰れるように根元が曲がっていました。挿げ替えることになりましたが、その基礎となる石の下にアリの巣が見つかりました。できるだけ堀上げて、土を焼いて戻し、小石等も拾い集めてきてしょうれんで突きかため、木槌でたたき直しました。

 


朽ちるに任せるつもりだったところを貸してあげているという貸主と、そこで身を立てるためにお金には換算できない労力と人生をかけているこちらのとの立場の違いは、如何ともしがたい。しかし、こうしてフタを開ければ開けるほど問題が噴出するような、普通なら断る厄介な仕事を、私たちが用意できるお金では本来なら足りないことを承知の上で引き受けてくれた、友人の気持ちとその真剣な仕事をけして無駄にはしたくありません。

 

 

 

 

(その4につづく)